『道化か毒か錬金術』書影

さて11月1日発売『道化か毒か錬金術』の紹介です。
表紙画像はこちら!

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イカしてるね。最高だね。イケてるね。
ってなわけで、軽妙、洒脱、そして馬鹿という雰囲気を軸に、アクションとギャグ寄りのコメディ、パスティーシュ、なにより自由さを目指したエンタメ小説となりました!
具体的には、めっちゃ金持ちの錬金術師公爵と、ガチめの女好き男装の麗人エージェントが、双方の性癖から恋愛関係にならないバディとなる洋画っぽい作品となっております!
今回は概念的になったり、思弁的になったり、前衛したりはしません! 病気が治っているというのもありますが、時代が変化したことで、私本来の嗜好である「ちょっと気取ったオシャレな笑い」という骨子を貫いて書けました。“ライトノベルであること”を意識しなくてよくなったのはいいものですね。
来週より、この日記でも予告画像を公開していきたいと思います。
よろしく!

『道化か毒か錬金術』への道。その五(いちばんうしろの大魔王編)

いちばんうしろの大魔王』は、「展開がいきなりすぎないか」「最後に前衛小説になるのは……」という非難もありましたが、どちらかといえば当初の予定通りであり、「少年漫画は最後は概念と戦う」という私の半ば冗談ともいえる見解を実現したものです。
そもそも“自同律”は埴谷雄高『死霊』からの言葉で、そのような小説になることは宣言していたつもりだったわけです。
とはいえ「なぜ作者はそんなことを選択したのか?」は書いておく必要があるでしょう。それが暴走であるのは間違いないとして、病状のせいだけではなく、時代の要請があった、というのが振り返っての結論です。


十年も経過すると忘れてしまう&そもそもわからない方も多いとは思いますが、当時からそれ以前のライトノベルは、とても馬鹿にされていた一方で、サブカルに手を出していた批評家に評価されると売上に関係なく持ち上げられるという状況でした(もちろんその後、売上は上がりますので業界内部の体験者以外には見えにくかったでしょう)。そこで「無理をしちゃった(テヘッ)」という部分と、「ライトノベルのど真ん中でやらないと意味がない(萌えエロ作品で埴谷雄高からベケットに至ると笑えるぞ)!」という気持ちがあったのです。
それにより、総体としても気に入った作品になり、自分としては悪くなかったと思っているのです。


さて、現在の私ですが、幸いにして病状は軽くなり、時代も変化しました。サブカルに手を出していた批評家の価値は下がり、さらにライトノベルに余計な趣味や相応しくないことを持ち込むのは一般化しました(まぁ個人の感想です)。


ようやく、自ら設定した奇妙な縛りから解放されたといえるでしょう。


ここで新作『道化か毒か錬金術』の話ですが、紹介までは数日間をおくことになると思います。また次回よろしく……。

『道化か毒か錬金術』への道。その四(休養と自覚編)

そんなわけで休養となったわけですが、休養と前後して『十六夜聖域』『戦国コレクション』の仕事をしております。


十六夜聖域』については「一ヶ月以内に続きを書けば増刷」というところを私が拒否する結果となってしまいました。この件については皆様にも申し訳ない。そんなわけで、現在、私は富士見書房様では担当がいない形になっています。電子書籍化する流れが完成する以前に出版した拙作タイトルが電子書籍化していないのは、おそらくこのためです。


戦国コレクション』については初の脚本のお仕事であり、小説が中断しているということから、水城正太郎名でなく金澤慎太郎名を使用しています。ふざけて名前を変えたわけじゃないのです(強調しておきたかった!)。こちらも最後までできるか不安でしたが、周囲に甘えまくって完遂できたことはありがたかったです。


さて、ここで記しておくべきなのは「この病気、治るわけじゃない」というところでしょう。『いちばんうしろの大魔王』十三巻まで二年、その後は四年! そのくらい治療しても気力がもとに戻ることはありません。もっとも私の場合は子供の時からの気質もあるのですが、自律神経系の不調は生活態度をきっちりしても治る気配はゼロです。やはり身体は壊さないことが大事なのです。具体的には一週間から二週間で文庫本一冊分を書くようなことを繰り返してはならない……。


休養中も、note、カクヨム、なろうにて自主的に作品は書いていました。これは商業では出ないであろうものを書き溜めていましたが、大反響というわけでもなく、また評価が低いでもなく、という状態に落ち着きます。しかし、これらを書くことはそれほど難しい作業ではありませんでした。体調が微妙にもかかわらず、書くことはできたのです。


新しい仕事とこれまでの反省、さらに自由に書いてみた結果として技術の上昇が確認できたことから、私は「なるほど、自発的暴走も暴走は暴走なのだな……」と学ぶことになります。コツコツした作業が嫌いで、新規&新奇なものだけやりたくて、ツッコミが欲しいが故にその場にふさわしくないことをあえてやる……そういう性格の人間が真逆のことをウケるためにやりつつ、性格も前面に押し出すというのは暴走だったわけです。
もちろん、これは『いちばんうしろの大魔王』を嫌々書いていた、ということではありません。次回、内容について少し触れることにします。当然のことながら気に入っている作品であり、暴走も病状も感じられる一品となっておりますので……。

『道化か毒か錬金術』への道。その三(大パニック編)

診断が異常なしだったので、ただの疲れと判断し、まぁ執筆ペースを落とせばなんとかなるだろう。アニメ後に休暇を……と思っていたところ、休んだとたんに問題が発生します。パニック障害の発症です。


もともと腹を下すタイプでしたが、電車でその頻度が上がります。きっかけはその程度でしたが、やがて、というかすぐに耐えられぬ尿意が襲ってくるようになります。しかし、漏らしはしないのがパニック障害たる所以。電車が数駅しか乗れず、バスも同様、ひどいのは趣味の映画も映画館では耐え難いことに。さらに状態が進むと、尿意に加えて息苦しさと冷や汗が出るようになります。最悪なのが車の渋滞で、少しでも進まなくなると「む、無理や……」ということに。このあたりで典型的なパニック障害であることがようやく自覚できました。

 

ここにいたり“病気を盾に周囲に圧をかける”という、それはそれで病状ともいえるムーブを選択します。長い休養と病院通いの開始です。
カウンセリングや怪しめの代替医療をすべて無視し、ほぼ投薬のみでの治療を選択しました。ところが病状はすぐにはおさまらないものですし、良心的な医師の治療は少量の薬からしかはじまりません。体験したことのない新規の奇っ怪な症状がではじめます。


自律神経失調症
いや、ババーン、みたいな雰囲気で言うところじゃなかった。


しかし、私とともに寝た人(残念ながらエロい意味でなく)はみな驚いてくれるのが、布団はおろかマットレスを貫通して床に人形を残すレベルの寝汗! これが数年間続きます。すごいね、人体の保水力。
他には、寝ながら絶叫し壁をぶち抜くパンチを放つ! などもありました。リミット外れてるので、今でも手が無事で良かったです。壁の穴は消えないけれど……。
一方、すぐに薬の効果が出たのは睡眠でした。私は一度寝たら十六時間眠ったあげくに起きてから数時間は小指を左右に動かすことしかしない(比喩や冗談でなく!)生物になっていたのですが、十二時間睡眠ですっきり起きられる身体になりました。
とはいえ、薬は限度いっぱいまで増やしても「まぁ効いてるんじゃない?」くらいの感じでした。これも体質でしょう。


継続中だった『いちばんうしろの大魔王』は十二巻から途切れ、休養しました。その間にも仕事はありますが、それについてはまた次回。多分、土曜は休むかと思います。

『道化か毒か錬金術』への道。その二(病状悪化編)

前回は『いちばんうしろの大魔王』を執筆しはじめたところまででした。時代の要請をテキトーに受け止めつつ、少年漫画っぽい売れるものを、という縛りで企画しました。
今だから語れる裏話という意味では、“将来魔王になると予言される”というネタは今も昔も一般的なものですが、自分は竹本泉先生の漫画に“未来の管理社会で公務員適性が高いと診断された真面目な少年がコンピュータをハッキングしたら真の適性が宇宙海賊だったのに隠蔽されていたということがわかったので宇宙海賊になった”というのがあり、それが元です。


で、幸い、そこそこ売れて楽しく執筆も続いたわけですが、体力の不足と睡眠時間によりスケジュールの維持が難しくなり、しわ寄せが精神でなく体力に響いていきます。鬱病への理解として「精神が疲れていくことが原因で、その兆候も精神にあらわれる」というのがあると思いますが、身体にあらわれる場合の方が多いと私は感じます。強烈な肩こりとそれによる頭痛、そこからの吐き気がずっと続き、眠るとそれがさらに強化されます(眠ると起きているときより歯を食いしばっているからです!)。もみほぐしたり湿布で治療しようとすると、血流が激しくなり頭痛と吐き気がよりひどくなります。それでも精神は前向きと自分では感じています。小説が書きたくないわけではないのですから。

 

実際には、精神にも負担はかかっていました。何をしゃらくさいと言われるとは思いますが、自分は本質的には「売れたくない!」作家です。商業である以上、そうは言っていられないし、本格的に売れないと書く意味も意欲も消失してしまうのだから間違った志向なのですが、売れると起きてくる弊害が自分には重荷でした。
売れると起きる弊害とは? それは「ずっと同じポジションを求められる」ことと「本気で書いた別作品の評価が下がる」ことです。特殊な人間しか興味が持てないでしょうから、あまり説明はしませんが、私は後に他のレーベルからお仕事の話をいただき、実際に着手したにもかかわらず「売れたくないからしません」という大変に失礼な断り方をしてしまいました。病んでますね。

 

自分も大方の鬱病の人と同じく、精神が落ち込んでいると自覚できなかったため、通院することなく仕事を続け、結果として不定期に蕁麻疹が身体の各部に転移していく、という現象に襲われます。さらに強烈な胃痛。不眠からの過眠。これらが不定期に、そして隙間なくやってきます。
面白いところでは、これは治療後に消えたことで判明したのですが、「ゴキブリ、蜘蛛を過剰に恐れる!」というのも症状でした。自分でも謎なのですし、もともと&現在も嫌いなのですが、かつてはハエトリグモでも重篤な不調に陥っていました。今では部屋に出現するハエトリグモを愛でて共存しています。心当たりのある方、薬で治るかもしれません。

 

ラクノフォビアはともかく、蕁麻疹で皮膚科、胃痛で胃カメラ、と診断を受けるわけですが、異常はまったくありませんでした。最終的には蕁麻疹が目のまぶた裏に転移し、コンタクトレンズ三枚分くらいの目やにが目を塞ぎ、目が開けられずに強烈なかゆみが襲ってきますが、これも眼科ではアレルギー性結膜炎の診断。もはやどうにもならなくなってきたのですが、まだこれでも病状は最高潮ではありません……。


というところで、次回。ライトノベル関連で質問あればTwitterにお願いします。

『道化か毒か錬金術』への道。その一(新刊よろしく編)

11月1日に水城正太郎としての新作『道化か毒か錬金術』が出ます!
http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/bunkoblog/?p=31725

 

ってことなんですが、実はこれ、商業としては久しぶりの作品になります。その理由は「病気になっていたから!」なんです。闘病記がてら、ここに至るまでの経緯を数回にわたってざっと説明させていただきますんで、ボードゲームの話を休んで、ちょいとの間、お付き合いを。

 

まず病名。
鬱病!」
意外と普通だった。

 

とはいえ、今になって振り返れば、小学生時代から傾向はありました。とにかく眠る子供だったんですよ。個人経営のゆるく楽しい塾に通っていたわけですが、何があろうとも居眠りをするので「キミだけは授業中ガムを噛んでいてよい」とされていたほどで、現在なら発達障害のカテゴリーに入ることは確実だったでしょう。

 

自分でも就職に向いていないことはわかっていたので、ゲーム会社経由で作家を志望しました。決まった時間に出社できないことを理由に、勝手に睡眠環境を作った挙げ句に会社を作家になるための踏み台と公言するひどい社員でしたが、会社が潰れたタイミングとライトノベルの流行が重なり、小説を出すことはできるようになりました。

 

が、何本か執筆すると、やたら眠る発達障害の傾向と、寝る、書く、食べる、しかしない生活が重なり、スランプに陥ります。すでに発病していたと言えるでしょう。最もどうにもならなかった時期は『ハーフダラーを探して』(富士見ミステリー文庫)の執筆時期です。それでも内容はそこまでひどくないはず……! なお、すぐメタなことをしようとするとか、他ジャンルのスタイルを導入してわけのわからない方向にしたがるとか、小説全体の構造がパロディなのにそれを宣言しないことをネタにしてしまう、とかは、病気でなく嗜好のせいなので、『ネコのおと』とか『すてるがかち』(どちらも富士見ミステリー文庫)は鬱によって書かれたものではありません。

 

当然といえば当然なのですが、身体的な疲れと鬱は連動しています。仕事が少なくなると動けるようになってきたので、楽しく『せんすいかん』(HJ文庫)を書き、それを予定通り終えた後、「まぁ売れる作品を書いたほうがいいよね」という動機のもと『いちばんうしろの大魔王』に着手します。そこから激しいことになるのですが、そこはまた次回としましょう。続きもよろしく……。

『Seasons/十二季節の魔法使い』をプレイ

『Seasons/十二季節の魔法使い』をプレイしましたよ!

これはプレイヤーが魔法使いになり、ダイスで手に入る魔法エレメントと魔法カードを駆使して金(クリスタルと呼ばれるもの)を集めていく! というゲーム。すでに名作として名高く、オンラインでも無料で遊べます!

ja.boardgamearena.com

特徴的なのが、ふたつドラフトを行う点。ドラフトというのは、プレイヤー全員がリソース(この場合だと複数のダイス、複数のカード)を共有し、手番のプレイヤーから順番に一個ずつ使用権を選択していく、というルールのこと。

ドラフトを行うと「多くのゲームではランダムで配布されるカード等が平等かつ戦略性を持った配布になる!」という利点があるのです。

本作では魔法カードでデッキを作り、それをダイスで手に入るエレメントによって使用するという構造。そのどちらもドラフトで配られるため、戦力はかなり拮抗します。

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カップ内がエレメント。点数表がクリスタル。円形のものはターン数

ルール紹介やプレイセオリーを語っている方は多いので、上記リンク先を参照していただくとして、購入やプレイを検討されている方へ私が売り込みをかけるとすれば、以下の二点がポイントになるでしょうか。

「ボードやダイスの手触りが最高!」

「世界観が楽しいのに真剣勝負!」

いや、ほんとに全体のデザインがいいんですよ。

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上部のくぼみにエレメントがぴったりはまるのだ。穴にはダイスを置こう。

ダイスは大きくて重く、振ることが重大なことのように思えてくるし、魔法は普通の世界観ならゲームエンド級の効果ばかり。それでいてプレイは一点を争うガチ勝負になります。このゲームばかりプレイする人がいるのも納得の出来。

私もまだプレイが浅いので、解析とまでは至りませんが、勝つために気にしておくべきことは次の三点になるかと思います。

「カードをすべて記憶しておく」

「相手の妨害が重要」

「勝敗はカードの優位でなくクリスタルの数」

カードの記憶は本作ではそれほど難しくなく、数回プレイすれば覚えられます。相手が何のコンボを狙っているかがわからないとプレイの予定が立てられないというわけです。それができるようになると、全員が予定通りにカードを使い切れるようになります。ここで重要になってくるのが妨害です。他のゲームでは妨害は自滅への道なのですが、本作では妨害がゲームバランスに織り込まれています。相手が望まぬダイスを残し、高コストカードを手札に戻し、クリスタルを奪わなくてはなりません。そして、ボード上の優位やコンボ、低エレメントでのカードプレイを重視したくなりますが、それらもすべてはクリスタルのため。勝利条件はあくまで勝利点。すばやく相手がどうやってクリスタルを生む作戦なのかを見抜き、勝利点で優位に立ちましょう。大逆転が普通にあるゲームです。

 

そんなわけで、かなりオススメのこのゲーム。ネット上の無料プレイもいいですが、手触りは圧倒的にボード。四人集まれるなら麻雀代わりにも良いですよ!

十二季節の魔法使い 日本語版

十二季節の魔法使い 日本語版