Jアノンの現在地

 現在進行形の陰謀論として「日本におけるトランプ支持者たちが噂話をどうとらえたか」を追うことからはじまった一連の日記ですが、Qアノンの日本版、Jアノンと呼ばれる現象の現在地を記してひとまず終了しようかと思います。

 なお本文は個人や団体、陰謀論そのものを揶揄することが目的ではありませんが、筆者は陰謀論に懐疑的な立場であることを断っておきます。故に削除、訂正には応じます。登場される方々の敬称は略させていただきます。

 

予備知識

 Qアノンとは米国の匿名掲示板への投稿から始まったムーブメントで「米民主党系の政治家やユダヤ系の銀行家、リベラル系文化人の多くが秘密結社(ディープステート)のメンバーであり、それと対決するために市民たちに結集を呼びかける」というものです。2017年10月に『4chan』という米国の匿名画像掲示板に出没した“Q”が「自分は政府の機密組織にアクセスできるメンバーである」として上記の主張を行い始めました。

 4chanはよくある解説では2ちゃんねるとの関連を謳われますが、精神的には日本の『ふたばちゃんねる』(アドレスは2chan)の直系です。その特殊な精神性はQアノン運動にも強い影響を与えていると考えられるのですが、それは別項が必要になるので、ここではおいておきます。米国ではその後、各種掲示板にQが出現し、匿名ながら信憑性を伺わせる書き込みで強い影響力を発揮するようになりました。Qはトランプを対ディープステートの大統領であるとしており、トランプ自身がQアノン関連の投稿をSNSで拡散したことでムーブメントはますます信憑性を高めます。

 しかし、そのムーブメントはトランプ敗戦となった選挙後に、彼らの想定する『嵐』(ディープステート関係者の大量逮捕を示す)に繋がる予言が現実には行われなかったことで急速にしぼんでしまったことは1月11日にまとめた通りです。

 

日本における初期Qアノン

 日本において最初にQアノンを名乗ったのは、おそらく『QArmyJapan』(後に改称し『QArmyJapanFlynn』)でしょう。元国家安全保障問題担当大統領補佐官を勤めたマイケル・フリンより日本においてQアノン活動を公認されているとし、ホワイトハウスやQアノン系著名人のTwitterもフォローしていました。日本では雑誌『フライデー』に次のように紹介されています。

friday.kodansha.co.jp

 しかし、この集団は「反安倍政権、反創価学会、反ワクチン、反5G、反集団ストーカー、反税金、ゲマトリア等数字語呂合わせの使用、反対者の工作員認定」などカルト的主張のほぼすべてを網羅し、内容が定かでない内部分裂の後、関係者のTwitterのほとんどが凍結されるという事態を迎えます。凍結の原因は米国におけるQアノンたちとの交流が理由でしょうから、彼らこそ日本における本物のQアノンだったと言えるでしょう。最初にして最も過激だったというわけです。

 

右派論壇のYouTubeチャンネル

 一方、そこまで過激でないもののJアノン運動に参加する人々はYouTubeを情報源として、それらをTwitterで拡散することで活動しています。各地でデモも行われており、その様子は記事になっています。

www.dailyshincho.jp

 この記事でも大筋はわかるのですが、彼らが見ているYouTubeを紹介することで、さらに深く見ていくことにします。まずはデモ主催者側に近い右派文化人のYouTubeチャンネルから見ていきましょう。

 軍事系のジャーナリスト“水間条項”、“篠原常一郎”。デモでも演説を行った幸福の科学の“及川幸久”。右派論壇誌『WiLL』執筆者からは“馬渕睦夫”、“深田萌絵”。いわゆるN国(旧NHKから国民を守る党)系から“くつざわ亮治”、“石川新一郎”。デモの中核である統一教会サンクチュアリ協会に親しい“我那覇真子”。バックボーンは様々ですが、いわゆる右派論壇で活動している方々が中心です。衛星放送『チャンネル桜』や百田尚樹チャンネルへの出演者が多いことなども共通しています。これら古典的右派がJアノンを導いていることは間違いありません。が、それだけでない広がりがこの現象には存在します。

 

YouTuberのチャンネル

 続いて匿名のいわゆるYouTuberのチャンネルです。そのバックボーンは元ゲーム実況者からおそらく匿名の右派論壇関係者まで様々です。“闇のクマさん”、“BBニュース『時事.政治.国際問題』”“kapaa!知恵袋”、“妙佛 DEEP MAX”、“なんでもニュース女子”、“光の地球連邦ニュース”などがTwitterでよく参照されています。
 アップされている動画は、いずれも百万再生まではいかないものの数十万再生はされており、見ている層の人数が伺えます。「確実な情報があって勉強になる」などと熱狂的な反応が見られるのが特徴です。

 

チャンネルの共通ソース

 ところがそれらのチャンネルにおいて、その主張はかなり似通っています。日本国内で一次情報が生まれない以上、話題のほとんどが米国からの輸入になるためです。トランプの側近とされる弁護士“リン・ウッド”(日本ではリンウッド表記多数)やQの中枢にアクセスできると主張している英国人“サイモン・パークス”などからの情報が大半です。Qアノンの主張がそのまま反映されていると言っていいでしょう。

 もうひとつの情報源は反中国共産党のメディア『大紀元』です。米国に拠点があり、トランプ支持で有名で、その主張もかなり反映されているようです。前掲の記事に「デモにおいて比率は変わるものの中華色がある」とされているのはこのためでしょう。特に“張陽”、“鳴霞”が中華系の二大巨頭で、右派文化人からYouTuberまでこの二名の発言をかなり参照しているようです。

 

ソースの中身は

 彼らが参照している一次情報を見てみましょう。それはリン・ウッドが真正のものだから見るべきと主張した動画(YouTubeからは削除されている)『Q - The Plan to Save the World by JOE M』から確認できます。

「世界は銀行システムが設立した時点で、犯罪傾向を持つ秘密結社にシステムごと乗っ取られました。それこそディープステート、あるいはカバールと呼ばれる集団です。過去、米国政府内からそれに反対する動きもありました。ケネディレーガンです。彼らが暗殺、暗殺未遂と狙われたのはそのためです。現在カバールに抵抗するのはNSAアメリカ国家安全保障局)で、トランプを大統領をトップに作戦を進めています。その作戦は『嵐』と呼称されます。カバールの大量逮捕です。カバールの傘下にいるのは北朝鮮、IS、議員や有名人など多数で、彼らの逮捕により人類が解放される『偉大なる覚醒』がはじまるのです」

 これがQアノン思想の中核です。

 現実的でなく、矛盾もしている話ですが、一見するとしっかりしている右派文化人のYouTubeでも、この説は否定されていません。さらに同一ソースからでてきた不正選挙、ローマ教皇逮捕などという説も肯定されており、いわゆるJアノンは所属集団は違えど、統一された陰謀論で動いていることがわかります。

 

情報をさらに掘る

 では、彼らが統一ソースとしている人々の主張の細部を見てみましょう。

 多く引用されるサイモン・パークスは、「自分は英国人でありながら、Qにアクセスできる数人のうちの一人だ。Qは四人の人物と量子コンピューターのユニットである」と主張しています。さらには「プロジェクト・ルッキンググラスという宇宙人の未来予知テクノロジーを使用した作戦がある」とまで言っています。

 この量子コンピュータという話は張陽も紹介しており、かなり信じられているようです。さらには通貨制度が量子コンピュータによる金融システムによって変貌するという説が真面目に語られています。“ホワイトハット”なる集団がそのプロジェクトを担っていたと主張し、本も出版しています。そのプロデューサーが“望月龍平”で、人工地震説や原爆投下の陰謀などを語っている古典的陰謀論に染まっている人物です。

 さらに怪しい人も登場します。石川新一郎、及びBBニュースはワシントンからメッセージを受け取ったとしていますが、この送り主が“ベンジャミン・フルフォード”(現在、古歩道ベンジャミン)であるようなのです。彼は本当に大量の陰謀論本を上梓している界隈の大物で、イルミナティ、ハルマゲドン、経済崩壊論などあらゆる陰謀論に顔を出す人物です。

 加えてQアノン情報の翻訳者に“佐野美代子”。スピリチュアル系の活動家で、引き寄せの法則を広めた『ザ・シークレット』を翻訳している大御所です。彼女はリン・ウッド、サイモン・パークスなどの翻訳はもちろん、「ディープステートの地下秘密基地を見た」と主張する元米海軍“ジーン・デコード”や前述のホワイトハットなどを紹介し、レプティリアン、光の銀河連合など先日の日記で紹介した現代スピリチュアルとQアノンの活動を関連付けています。

 Qアノンに連なる情報を掘っていくと、古典的陰謀論、現代スピリチュアルなどに行き着きました。これを日本だけの特殊事情と見るわけにはいきません。Qアノンの大本の主張に、すでに古典的陰謀論が入り込んでいるのです。

 

Jアノンとは

 ここまで見たきたことからわかる通り、情報を掘っていくと「Qが本当は存在しない」ということがわかります。最初の投稿こそ存在したかもしれませんが、それはある種の悪ふざけであったということなのでしょう。騒ぎになった後に表面化したのは、古典的陰謀論者に乗っ取られたQの姿でした。米国要人さえ信じてしまったのは、要人同士が互いにQであると疑ったためか、ムーブメントを自陣営に有利なように使おうとする動きゆえのことでしょう。さらに大本のQアノン自体が、反中国共産党大紀元を中心とする中国国外の民主化勢力によって利用されていることも影響しました。それらの動きが日本国内で結びついたのがJアノン。陰謀論の寄せ集めが反中国共産党で団結した姿です。

 

今後の展望

 今後の政治系陰謀論においてこのムーブメントが無視されるはずはなく、私のようなオカルト好きからのウォッチは終わることはないでしょう。しかし、その主張の中核部分の非現実性と古典的陰謀論者たちによる乗っ取りにより、このJアノン運動が長く続くはずはなく、右派論壇の人々は順次手を引いていくものと考えられます。

 記憶しておくべきなのは、米国大統領がこれをかなりの部分まで信じたであろうこと、そして信じていないにせよ、今後とも利用する気であることでしょう。さらに、陰謀論を切り離したとて、彼らが悪であると断じた「BLMに代表される過激派の暴力を容認し、人権や平等を謳いながら全体主義を称揚し、多数派への差別を行う左派」というイメージは、一般の人々の中に残り続けるということが重要です。

 これからの時代における政治対立は、「Jアノンが断じた悪は誰の中にもあり、それを政治がどう扱っていくのか?」に焦点があるように思います。陰謀論が一部のコアな人たちだけのものになったとて、その投げかけてくるものは誰もが考えなければならぬ問題のようです。

 

追記:文中“人物名”を検索すると該当人物のYouTubeTwitterなどへ行き着けます。

巨大宗教としての現代スピリチュアルと宇宙人

 『Dimitri Osmosovich』日本語表記だと『ディミトリ・オスモソヴィッチ』で検索するとわかるのですが、この自称ロシア連邦保安局のエージェントは、「プーチン政権がアヌンナキと軍事的に戦い続けている」という主旨の主張を続けています。もちろん荒唐無稽な説で、陰謀論としても意図がわかりにくいのですが、この「アヌンナキ=宇宙人が人類を知性化した」という基礎部分こそ昨今広まっているスピリチュアル的世界観の中核です。陰謀論とも近接しますので、まずはこの世界観の現在の立ち位置を確認したく思います。

 

アダムスキーの頃から

 おそらくUFOに乗ったと主張した人の始祖はアダムスキー型円盤で有名なジョージ・アダムスキーですが、彼はUFO宗教の先駆けでもありました。

 UFO宗教は大まかに言えば「実体を持ち精神体でもある高度な宇宙人が、やがて人間を完全平和に導く」という主張を持つ団体です。50年代から70年代に多く立ち上がりました。コンタクティーと呼ばれる人物が中心となり、その人物のみがテレパシーにより宇宙人からのメッセージを受け取ることにより維持されるという形態を多くとっています。

 アダムスキーの著作には宇宙意志との一体化や人類のテレパシー獲得による平和を訴える『宇宙哲学』なるものが記述されており、UFOや宇宙人を宗教化、スピリチュアル化するための重要点が最初期からすべて備えられていたことが伺えます。もっともアダムスキーはそれ以前に東洋趣味の宗教団体を設立したことがあり、その経験も生かされているに違いありませんが。

 アダムスキーの著作は全集化されており、その分量から“勉強する”必要がある雰囲気を放っている点も見逃せません。現在でも「UFOは信じられないがアダムスキーは素晴らしい思想を語っている」というレヴューが投稿されており、ある種の人々を惹き付ける完成度に驚かされます。

 これらUFO宗教は最近になって、その特色をそのままに、宗教としてでなく、スピリチュアル団体として乱立しています。2012年は後述する“アセンション”の年とされ、多くのスピリチュアル集団が色めき立ちました。これらの団体が主張していることがどれも似通っているというのが現代スピリチュアルの特徴であると言って良いでしょう。

 

デニケンが科学的雰囲気を付加する

 アダムスキーらが示唆した「古代に宇宙人が来訪し人間に知性や文明を与えた」という主張はエーリッヒ・フォン・デニケンによりメジャーとなりました。1968年の著作『未来の記憶』がベストセラーとなり、1969年には邦訳されています。

 この著作は科学的な匂いを持っていたのが特徴で、ピラミッドやストーンヘンジ、ナスカの地上絵などのオーパーツと呼ばれる遺物がいかに当時の技術で実現不可能であり、天文学的に正しい特徴を持っているかを並べ立て、古代人の神話がいかに宇宙人を連想させるかと誘導しました。現在ではほとんど論破されていますが、オーパーツについての噂話のほとんどはデニケンにより広められたと言えるでしょう。

 このアプローチが主にシュメール文明に対して向けられたものが、惑星ニビル、そしてアヌンナキ=宇宙人という説なのです。

 

アヌンナキ

 アヌンナキとは、ゼカリア・シッチンによる1976年の著作『The 12th planet』で唱えられた宇宙人で、シュメール語による神々の総称です。デニケンの主張を発展させ、世界の各種神話を「人類は宇宙人によって作られた奴隷である」というアプローチで繋いだものです。「かつて太陽系に存在したが失われてしまった惑星ニビルよりアヌンナキは地球にやってきて、人類に知恵を与えた。アヌンナキは爬虫類型であり、エデンにおける蛇や、各地の蛇神伝説がそれを示している。アヌンナキは善悪の立場に別れ、人類史の裏面で争いを続けている……」なるストーリーに集約されます。

 この直立した爬虫類型宇宙人というアイデアは、1982年に提唱されたディノサウロイドと1983年のドラマ『V(ビジター)』の人間の顔面の皮を剥ぐと爬虫類の顔が出現する、とのビジュアルにより鮮烈にイメージ化されて伝わり、一部のQアノン信者が主張している「ディープステートはレプティリアンに支配されている」「彼らは瞳孔が縦になるので見分けられる」などの言説に繋がります。

ja.wikipedia.org

www.youtube.com

 

スピリチュアルと宇宙人の融合

 近年になってUFO宗教を含む現代スピリチュアル団体が乱立したのは前述の通りですが、その特徴として団体間に奇妙な融合が見られることが挙げられるでしょう。彼らはそれぞれ、アルクトゥールスシリウス、ゼータ・レティクル、エササニ……と実在、またはオリジナルの無数の星々の宇宙人とコンタクトしていると主張していますが、互いにどちらが本物だ、と争い合うことはあまりありません。「宇宙人は高次元より語りかけており、低次元にある人間を次元上昇(アセンション)させることで幸福に導く。次元上昇できない悪の宇宙人もおり、彼らは人類に干渉してくる。宇宙人の血は古代より人間に流れ込んでおり、善悪どちらの血に従うか選ばなければならない」という世界観を共通して持つようになっているのです。

 これは信奉者、というかユーザーが被っており、彼らが情報を共有しているため、そして、何より教祖たるコンタクティーたちが旧来の書籍やセミナーという手段にとどまらず、You Tubeによる動画配信も行うようになったためでしょう。ユーザーの期待に応えることで世界観が似通ってきてしまったということになります。

 高次元存在(神、心霊、疑似科学としての宇宙論)波動エネルギー(パワー・ストーン、パワー・スポット、ヒーリング)、古代の血(生まれ変わり、レムリアやムー)、善悪の戦い(ライトワーカー、天使・悪魔、龍と蛇)、などのように各種スピリチュアルはUFO宗教の下に統合可能となっているのです。

 宗教研究で使われる用語に“シンクレティズム”というものがあります。異なる宗教が特定の土地で融合してしまうことを指しています。日本では神道と仏教の神仏習合などが知られていますが、現代スピリチュアルはこのシンクレティズムを起こしていると見るべきでしょう。「前世がアトランティスレプティリアン系のアヌンナキと戦っていましたね。大きなエネルギーの持ち主なのがオーラからもわかります。クリスタルを身につけるといいでしょう」などと言うスピリチュアル系の霊能者は珍しくありません。

 なお前述のアヌンナキなどはレベルの低い悪の宇宙人の代表として固定されるようになりました。一時期一斉を風靡したグレイタイプなどはさらにひどく、どの説においても悪の使い走りのポジションとなっています。

 

つまみ食い宗教の誕生

 驚くべきはユーザーの順応性でしょう。この複雑なシンクレティズムにより、団体やコンタクティー、霊能者ごとに微妙に主張(教義)は異なるものとなっているのですが、スピリチュアル系ブログや書籍の感想等を見る限り、かなりのユーザーが独自に複数の主催(教祖)の主張を消化、吸収し、納得できるものだけをピックアップする形で世界を展開しています。政治陰謀論として理解する人もいれば、前世占いのように理解している人、ヒーリングや心霊主義のみ取り出している人、旧来の宗教における瞑想修行に結びつけている人など様々です。

 これは“信者は統合されていないが共通の世界観を持っている宗教”とでも呼ぶべき現象でしょう。これを民間信仰とすれば、かなりの数の国に信者が存在することになる一大勢力です。体系化されながら、まだ名付けられていない巨大宗教がそこにはあります。

 

Qアノンも侵食しているが……?

 この信仰は前述した統合しやすさとユーザーの順応性により、スルリと現代陰謀論の中核にも滑り込んでいます。Qアノンは本来、反ユダヤ主義ですし、多くのQアノン信奉者たちがそうであるように政治的陰謀論が中心なのですが、入り込んでくるスピリチュアル系を排除しきれてはいないようです。

 しかし、現在Qアノンの日本版Jアノンとも呼ばれる非スピリチュアル系陰謀論者は、明確に違うルーツを持ち、一大勢力を形成しています。それについてはまた別に書く必要がありそうですので、今回はここまでにします。

叶えられた陰謀論

 米国の状況のせいで陰謀論もにわかに注目を集めるようになってきました。しかし、流布している噂や陰謀論者の主張を頭ごなしに嘘と決めつける論調も多く、それが社会の分断を招くことにもなっています。陰謀論で難しいのは事実とデマを見分けることです。それを知るために、後の報道によって事実の確度が高いとされた事件を見ていきましょう。言うなれば、それは「叶えられた陰謀論」。すなわち、噂レベルだったものが後に事実だったと判明した事件や、陰謀論に典型的な性質を持っているのに事実だった事件などです。

 

北朝鮮による拉致

 若い人たちには意外かもしれませんが、七十年代から八十年代初頭、北朝鮮による拉致は都市伝説として語られることの方が多かったのです。サーカスや見世物小屋の人さらいと同じカテゴリーに入っていたと言っても若い人にはさらにわからないでしょうが、政府が調査、把握していなかったことや、ニュースで報道されなかったことで、拉致の情報が口コミを主として広まったため、真実とそれによく似たデマが判別できない状態になっていたのです。

 今では当時に広まった嘘のような話が事実だったことがわかっています。「日本海の海岸に独りでいると海から上がってきた男たちにさらわれる」や「夜に日本海側を歩いているときは金槌で石を叩く音に注意しろ。それは拉致対象の人数を伝える手段だ。林の中に逃げ込めば相手は追ってこれない」などの噂がありました。

 さらに一部政治家やメディアが拉致を確信できるまではそれを肯定しなかったことも九十年代後半まで拉致事件が都市伝説扱いだったことに拍車をかけました。後述するミトロヒン文書とも関わってくる問題です。

 

金大中事件

 1973年の事件です。当時の独裁政権であった朴正煕政権に対抗する民主化運動の活動家であった金大中諜報機関であるKCIAにより日本国内で拉致されたもので、暗殺未遂事件であったことが後にわかっています。

 事件そのものはすぐに国内でも報道されたので都市伝説ではありませんが、特筆すべきは事件の詳細がいまだに正式な文書としては公開されていないことでしょう。これは事件直後から日本と韓国の間で政治決着が図られたためで、この幕引きのために裏金が流れたという証言も含め、まさしく陰謀そのものであったと言えるでしょう。

 登場人物もKCIAをはじめ、一般には秘密とされる自衛隊諜報機関、日本の暴力団、さらには意外な出版社の社長まで出てくるワクワクするものです。本当にあった陰謀としては出色の事件だと思います。

 

ミトロヒン文書

 これは1992年にミトロヒンによって持ち出された旧ソビエトの工作活動を記した文書です。量が膨大であったため2000年代初頭にかけて公表されました。

 注目すべきは日本の主要新聞社のすべてにソ連諜報機関KGBに協力する者がいたことです。文書公開以前にレフチェンコというKGB職員が亡命、日本国内での活動について証言したこととも一致しているため、事実と考えて良いでしょう。もちろん政治家にも工作は行われており、ソ連に友好的な反応を引き出そうとしています。

 この一連の事実は「政治家やマスコミに他国から工作を受けている者がいる」ことを示しています。北朝鮮による拉致事件を否定していた政治家が存在したことも裏付けにはなるでしょう。現在でも北朝鮮や韓国、中国からの工作は噂され、様々な新聞社や政治家が疑われています。

 

バチカン銀行

 ヨハネ・パウロ一世の暗殺と、それに伴う一連の疑惑です。ローマ教皇庁資金管理団体の通称をバチカン銀行と言い、イタリアの銀行やマフィア、さらには極右秘密結社との癒着が噂されていました。ヨハネ・パウロ一世は、就任後まもなく資金流れの透明化に着手しますが、その改革着手直後に暗殺されてしまいます。

 マフィアと癒着した大司教、秘密結社と関係のある銀行家などが主犯とされましたが、マルチンスク大司教は国外逃亡、ロベルト・カルヴィは暗殺と不透明な決着に終わります。秘密結社『ロッジP2』はフリーメイソン系の出自でありながら政治結社化し、フリーメイソンからは破門されていますが、その後も武器輸出や各種テロに関わり続け、イタリア当局より摘発され大スキャンダルとなるものの、逮捕されなかったメンバーたちは何事もなく活動を続けました。代表的な人物にはイタリア首相にまでなったベルルスコーニがいます。

 

なぜこれらを事実とするのか

 陰謀論は情報源が定かでなく、推論と事実が混ざっていることが特徴です。主要メディアで報じられないというのも大きなポイントでしょう。ミトロヒン文書のように主要メディアへの不信がつのるような事実もありますが、メディアすべてを支配することが不可能と考えられる以上、主要メディアへの全面的な不信は持たない方が良いはずです。

 ここであげた事件を事実としているのは、情報の出どころが一箇所でないこと、また複数の筋から集めた情報が同じ事象を指し示すことからです。ひとつの事件内でも、明確な事実と推論が分離している、というのも事実だと信じるに足る証拠と考えます。もちろん事件後すぐに報じられたというわけではありませんが、多数メディアで報じられ、書籍も複数が出版されています。

 

これらによりわかること

 これら事実になった陰謀よりわかることは、陰謀論を否定する人にとっては「荒唐無稽に感じられってもある程度は事実になる陰謀もある」ことですが、何より大事なのは現在、陰謀論を信じてしまっている人、あるいは『Qアノン』のことを信じていたが裏切られてしまった人に向けての教訓でしょう。それは「たとえあなたの信じている陰謀が本当だったとしても、社会は別にひっくり返ったりしない」ということです。

 北朝鮮の拉致が真実だったと明かされたことにより、拉致被害者のご家族への支援は広く行われるようになりましたが、拉致を否定してきた政治家やメディアはそれを反省することはありませんでした。ソ連の工作を受けた記者や政治家についても同様です。金大中事件やロッジP2事件はまさしく陰謀そのものという件でありながら、その影響は期待よりは大規模なものではありませんでした。

 つまり、信じている陰謀論が本当だったとしても、誰も反省しないし、世界のパラダイムが変化することもない、ましてやそれを唱えている人の生活には少しも影響することはない、ということなのです。

 これは正義感に駆られる一市民である我々には大変につらいことであるかもしれません。しかし、世界がひっくり返ったりはしないからこそ暮らしていけるという側面は確実にあります。陰謀を信じて裏切られたとき、帰るべき生活があるのはありがたいことでしょう。だからこそ陰謀について考えるときと生活のときで思考を切り分け、それが互いに侵食することのないようにしていくべきではないでしょうか。

 他にも事実だった陰謀や、確証のない陰謀論はいくつもあります。MKウルトラ、スノーデン文書、エプスタイン逮捕、中国製携帯電話によるハッキング……いずれもある一面では事実であり、ある一面ではデタラメ、あるいは推論にすぎないでしょう。情報を集めつつ、半信半疑で楽しむ。国際的な諜報運動に巻き込まれていない一般人としては、そのような態度で噂話を楽しむ態度が求められているのかもしれません。

陰謀論に陥らないために

はじめに

 陰謀論の記事を書いていて思ったのは、やはり陰謀論者への嘲笑が多いということでした。必要なのは誰かが陰謀論に陥ってしまう前に踏みとどまる手助けをすることであり、自身も陰謀論に染まらないように生活するということです。「自分は絶対に陰謀論に染まらない」などという慢心には特に注意すべきでしょう。

 しかし、厄介なのは「陰謀論とは何か?」が定義しにくいことです。どうやらマルチ商法情報商材商法、カルト、スピリチュアルなどにハマりやすい人が陰謀論にも染まってしまう、という傾向はあるようで、陰謀論そのものもそれらと同様の傾向を持ちやすいことがわかっています。

 「陰謀論とは何か?」を解説してしまうと膨大なテキストが必要ですので、それは別の機会か様々な方の記事に頼るとして、ここでは「陰謀論とは思考法そのものである」という仮説を立てて検証していこうと思います。

 

思考とは何かを定義しておく

 思考とは、科学の基礎となる論理的思考に代表される通り、物事を体系化、無矛盾化して整理するような脳の働き、とここでは定義しておきます。これにより、思考は“悩むこと”や“願望”と分離されます。

 皆さんの中にはこの定義と同様に思考というものをとらえている方も多いことでしょう。それは「きちんと思考できれば陰謀論にはハマらない」と考えている人が多いことからもわかります。

 

実は生活において思考はする必要がない

 その上で、物事を体系化、無矛盾化することは、生活において必要ないこともまたわかります。仕事において強制的に思考させられることはあるものの、生活というレベルであれば、誰かが思考してくれていることに乗っかっていれば、つまりは社会を信頼していればやっていけます。電車のダイヤは誰かが考えていますし、映像作品も思考の賜物ですが享受する分には視聴者が考える必要はありません。

 

考えないことに罪悪感を持ったら危ない

 考えないことは悪ではないか? そう思わされることから陰謀論はスタートするのでしょう。陰謀論にハマる人々の常套句は「目覚めた・圧倒的成長があった」や「世界の仕組みについて勉強した」などです。実は思考している状態を“良いこと”や“人間として優れている状態”と思っていることになります。

 「世の中には優れている人がおり、その人達は思考して世界を把握している」という世界観に触れること、そしてそれを信じることこそが陰謀論の根幹なのではないでしょうか。そして、それは「自分は陰謀論にハマらない」と信じている人にとっても共通の世界観ではあるわけです。

 

体系化、無矛盾化するとは

 ではここで定義した“思考”を方法論として分解してみましょう。体系化とは主に類似したものの共通点を見出し、それを元に一括で処理したり、並べて解決したりすることです。着ている服を靴下やシャツなどに分類して整理するか、「その日に着るもの」として一括整理するか、などは思考したと言えるでしょう。

 そして無矛盾化とは、原因と結果が結びついている状態のことです。「ヤカンに水を入れて火にかけたら沸騰した」、という程度のことでも原因と結果はあります。「食べ過ぎたから太った。故にカロリーコントロールしなければならない」あたりまで来ると思考したと言えるでしょう。

 

思考の楽しみ

 思考することは、誰でも“仕事”では行っています。仕事の面白さは思考したことが実現することである、と言っても間違いだと思う人はそれほどいないのではないでしょうか? 思考し、実験し、正しかったかどうかの結果が返ってくる。そこに快楽があることは実感している人も多いはずです。

 思考が快楽であること。詳しくは思考し、実験し、正しかったかどうかの結果を確認することが楽しい、というのは重要です。陰謀論がもし思考することそのものであれば、それは楽しいからこそハマるものとなるからです。

 

魔術的思考とは

 しかし、陰謀論者はしばしば思慮が足りないように見えます。思考しているのだとすれば、何を思考しているのでしょうか? そこで参考になるのは、やはり歴史です。陰謀論と科学、哲学が一緒くたになっていた時代の思考は、しばしば魔術的思考と呼ばれる思考法を取っていました。

 「藁人形に憎い相手の髪の毛を入れて釘で打つ行為」は、「髪の毛によって敵対者と関連性を持った“人間に似た形状のもの”を傷つけることにより、敵対者に該当の傷を負わせる」という思考により成立するものです。これは、類似していることを見出すという面において“思考している”のです。

 陰謀論に多く見られる「日付の一致を見出す」ことや「語呂合わせを頻繁に行う」などは魔術的思考なのです。

 

思考が常態化していく

 もちろん魔術的思考の限界はすぐにわかります。科学的でないことを排除すれば良いだけです。陰謀論の厄介な点は、「何者かがメッセージを伝えるためにわざとそうしている」という考え方をしてしまうことにあります。そしてそれも思考している状態ではあるのです。

 さらに陰謀論では回答が頻繁に与えられます。往々にして思考したことに結果を提示してくれる人がいますし、自分で調べても答えらしきものは見いだせる。マルチ商法やサロンなどは、むしろ会員に思考することを常態化するように動いている。陰謀論者たちは思考していないのでなく、全力で思考する快楽を追い続けていると考えられます。

 

非日常的な思考は常態化しやすい

 これはカルト、ネット上での政治運動やある種のフェミニストの言動にも当てはまるように思います。彼らは何を見ても“思考”してしまう。思考できるターゲットを探し、その答え合わせを頻繁に行うようになってしまう。そしてどんな場合でも同じ回答を確認するようになってしまう。

 いずれも思考することと快楽が結びつき、同じ思考を繰り返そうとする心の動きに逆らえなくなっている状態にあるように見えます。これは一見するとまともに見えるMMT論者や哲学者、批評家にも共通しているようです。

 

目覚めた状態とは思考法が固着した状態

 陰謀論者が言う“目覚め”とは思考法が固着した状態を指す、とここでは言い切ってしまいましょう。

  • 自分が“解決”できる問題を常に探してしまう
  • 自分が納得するためだけに思考を展開してしまう
  • “問題がある人”を探して論破・揶揄しに行ってしまう
  • 何についても原因が同じであると考えてしまう

 などがあれば、あなたは“目覚めて”しまっているに違いありません。

 

固着した状態から脱するために

 ならば固着した状態から脱するためにどうしたらいいのでしょう? そのためには、複数の思考法を持ち、それに快楽を見出す以外ないのではないでしょうか? 二重思考、とは通常良くない意味に使われますが、それとは違う意味で、二重に思考する必要があると思います。

 複数の思考法があることを知り、それを日常に侵食させないこと。生活者的思考、仕事としての思考を持ち、それとは別の魔術的思考、哲学的、思考実験的な思考は“思考趣味”として楽しむこと。趣味における上達や達成に思考を使用することで、思考の快楽を消費する。それらが解決策として考えられるでしょう。

 

とはいえ陰謀論は面白くはある

 とはいえ、個人的には陰謀論、魔術、オカルトはまだ私の趣味のひとつではあります。これらについて知ることで“思考”がしやすくなることもあるでしょうから、気が向きましたら陰謀論の解説などしたいと思います。

 

現在展開中の小説です。陰謀論もかなり関わってきますので、よろしく。

novelup.plus

陰謀論の記録

本記述の概要

 これはトランプ支持者たちがTwitterで流したTweetを時系列で抜書し、陰謀論が拡散する様子を記憶しておくために書かれました。

 そこから導き出される結論としては、陰謀論に特有のワードと展開について知っておき、それに警戒すべきではないか、というものです。

 

予備知識

 2016年の大統領選よりこの陰謀論ははじまります。詳細はニュース記事に頼ります。

www.newsweekjapan.jp

 もしこれをフェイクニュースであり、マスコミの捏造であると考えるなら、本記述を最後まで読み、“目覚めた”状態をやめるべきであると言えます。

 最初に提示されたのは「米民主党がディープステートと呼ばれる一団に操られており、彼らが世界をコントロールしようとしている」という世界観です。

 これは過去に存在した様々な陰謀論と整合性を持たせるため、彼ら自身の手によりこのようにまとめられました。

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膨大ではあるがほぼ読む必要はない

 ここに登場するのは単語だけであり、その背後にある情報量は膨大ではありますが、図式としては単純です。「悪い宇宙人が古代から金持ちを支配し悪行を為した。そこに対抗する正義の勢力もいる」ということになります。

 そして「民主党を操るディープステート対トランプの戦いが現在行われている」というのが、現在盛り上がっている陰謀論なのです。

 

2021/01/10への流れ

2020 米大統領選挙

 ディープステート対トランプの戦いが行われているという陰謀論は当然ながら米大統領選挙で最高潮を迎えました。陰謀論者にとっての焦点は選挙そのものではなく、その集計システムです。ドミニオンという名をもつシステムを利用した不正が行われたというのです。

news.yahoo.co.jp

 これはやや陰謀論寄りのニュースです。日本のある程度大きなメディアでこのような扱いがなされたことは特筆すべきでしょう。ここではサーバーをめぐって銃撃戦が行われたという主張もあり、その後即座に否定されましたが、陰謀論の定石というべきか、否定の情報が陰謀論者たちに素直に聞き入れられたということは無いようです。

 そしてトランプが反撃に出るという噂が流れ始めます。

 

2021/01/06 米連邦議会議事堂占拠

 しかし、トランプの反撃というのは噂の域を出ませんでした。サーバーの押収が行われたとか、不正選挙の証拠を掴んだとか、バイデンや民主党有力議員の犯罪の記録が見つかったとか情報は流れましたが、何も起こりませんでした。

 ただひとつ現実になったのは、01/06の集会でした。

tocana.jp

 これは陰謀論側のソースですが、06日にデモを行うことが事前に知らされていたこと、それがトランプ側から出された情報であること、支持者以外の一般にはそれほど知られていないこと、などがわかります。

 トランプが陰謀論を利用して人々を扇動したという事実は重要でしょう。

 

2021/01/10 緊急放送システムの噂

 そしてトランプのTwitterが凍結され、弾劾訴追まで予定されるほどになった頃、Twitterに代わるメディアとしてトランプ支持者たちはSNSをPARLERへと移行します。そこでトランプの顧問弁護士であるというリンウッドが画像の発言を行います。

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PARLERでの発言

 それは日本にも伝わり、なぜか当日のうちに日本時間で01/10/23:00に緊急放送が行われる、というものに変化します。

※ 以下字体変化はTwitterより引用。但し個人特定や中傷が目的でないため改変アリ

 

****** *********さんより
日本時間2021年1月10日23時
トランプ大統領国民へメッセージ】
YouTuberで配信
【メッセージ後1時間で緊急放送システム】

 

 この発言はそれなりの数RTされますが、情報は変質していきます。そして、裏付けとしてリンウッド発言が訳されます。

 

2021/01/10/20:35
【要約しますと】
①トランプ氏の弁護士がSNSで発信した内容
②まもなく「緊急放送システム」でトランプ氏が声明を出す予定とのこと
③アップル社は緊急放送システムをも遮断する予定なのでアップデート機能をオフにして欲しい
④停電に備えて欲しい

 

 この停電というのはバチカンの停電のことである、と匂わせるリンウッド発言に呼応し、18時の段階でこの発言があります。

 

2021/01/10/18:03
先ほどの銃声が聞こえたバチカン、左側が今回の動画の姿だが、普段は右側のように見える。停電している。停電のなかで銃声が聞こえる。パキスタンは全土停電。

 

2021/01/10/18:50
アメリカ大統領選でドミニオンサーバーにアクセスしたのはバチカン所有の人工衛星である、と言われている。NATO軍(米軍)が証拠を押収するため、停電させた可能性もあるのではないでしょうか?

 

 20時の段階でTwitterのトレンドに「緊急放送システム」があがります。

 

2021/01/10/20:42
トレンドから突如消えたワード
「緊急放送システム」
順位が急激に落ちたとかでは無く、削除されたと思える。よほど都合が悪いのか?

 

2021/01/10/21:38
さっきまでトレンドに入っていたのに消されたのかなぁ?
投稿は結構あるしおかしくなぁ?い?

 

 トレンドは消えたり上がったりしますので、誤認なのですが、同様の発言は多数の人よりあがっています。

 

2021/01/10 古典陰謀論としての声

2021/01/10/20:56
緊急放送システムとは?
・アドレノクロム
・アドレナクロム
・ゴム人間
検索してみてください。
トランプ大統領が何と戦っているのか分かります。

 

 このTweetには注釈が必要でしょう。アドレノ(ナ)クロムとは人間のアドレナリンの酸化した化合物で、子供から採取したものが若返りの効果があると信じられ、ディープステートの有力者が児童から血を抜き取る根拠と考えられているものです。

 ゴム人間は人間の皮をかぶった権力者のことで、宇宙人等が正体を隠すためにそうしているのだという説です。いずれも古典的な陰謀論です。

 

2021/01/10/21:01
ここまで言われてもまだ気付かないバカはたくさんいるんだよな。メディアに踊らされてるのはどっちなんだよ。支配される側に甘んじてるだけで生きていける時代は終わってるのに。

 

2021/01/10/20:44
よくよく考えたら、明日って11日やーん! 9.11 , 3.11, 1.11..よく仕込まれてるなー!!

 

2021/01/10/22:23
緊急放送システムがトレンド上がってて、何それ?って思う方達へ。1日で理解することは厳しいと思うので、気にしなくて大丈夫だと思います。結局、事が起これば分かることなので。ただ、言えることは、これから数日で世界は劇的にいい方向に変わるってこと。なので、安心して頂ければと思います。

 

 これらも陰謀論に接した際に類型的な反応です。目覚めている側と支配される側という対比が見られます。数字の語呂合わせもかなりよく見られるものです。


2021/01/10 災害が起こるという期待

 一方、停電を大規模災害と捉える向きも出てきます。

 

2021/01/10/20:34
作りおきのおかずを作って、懐中電灯とロウソク確認して、一応の準備OK。もし無かったとしても、明日はこの作りおきのおかずでのんびり過ごそう。
でも、あるといいなぁ。

 

2021/01/10/20:25
まだ、どうやら生きてます。お米と水とならあるけれど、ガスヒータとかないから、停電しちゃったら、さむいね。でも、日本は備蓄電力とかあるんでないのかい? よくしらんが。

 

2021/01/10/21:34
万が一、停電したら家から出ない方がいいようですね

 

 微笑ましくはありますが、停電という情報が膨らみすぎて独り歩きしている様がわかります。人間はどうしても災害にワクワクしてしまう一面があるということなのでしょう。

 

2021/01/10 メディア不信

 もちろんアップル社についての発言も独り歩きします。

 

2021/01/10/21:03
アップル製品使ってる人は自動アップデートをオンにしてあるとそれを無効にするプログラムを入れられてトランプからのメッセージを見れない場合があるので自動アップデートはオフにしとくのがいいみたい。

 

2021/01/10/21:30
parlerでリンウッド弁護士をはじめ、TEAM_TRUMP等オフィシャルのアカウントをフォローし、彼らの発信をチェックしましょう。彼らの発言ならば間違いのない情報源です。要確認!!

 

2021/01/10/21:52
トランプさんは諦めないと思ってました! ところで緊急放送ってどうやったらみれるんだろう? 詳しい方教えてください。

 

2021/01/10/21:48
今何が一番心配かって、もし緊急放送がこっちでも流れるんだとしたら、この某国産スマホでちゃんと生放送で見れるのかっていう。生放送っていうのか知らんけど。

 

 よしんば緊急放送システムが存在したとして、それは緊急地震速報に類似した米国内で構成されている災害時用のシステムでしょうし、受信妨害があるとしてもはアップル製品限定では意味がありません。これらのTweetは何を想定して発言しているのか自分でもわかっていないでしょう。受信方法に素朴に疑問を持っている人に答えるTweetはありませんでした。

 そもそも元発言ではYouTube(元発言はYouTuberと誤字)での放送があり、その一時間後に緊急放送となっています。ここでも情報は変質しています。

 ただ根底にある大企業やメディアへの不信のみは強く感じることができることは付記しておく必要があるでしょう。

 

2021/01/10 混乱する人々

 これらの情報の錯綜に混乱する人々もいます。

 

2021/01/10/21:30
何が何だか分からなくなってきた。しっかりしなくては!

 

2021/01/10/21:31
バチカン停電の画像についてはライブカメラが回ってる時点おかしい。という意見が気がかりなのでデマなのか??? 情報が交錯し過ぎて情弱者にはついてけん!

 

2021/01/10/21:31
緊急放送システム のことですが、バチカン停電はデマです。
儀式で灯りが消えてたのを外国の方が停電と誤解してしまったようです。

 

2021/01/10/21:32
→ローマの停電は事実でした
もしかして中国の大規模停電も、アメリカや反中京の特殊部隊が基地や要人を制圧する為に起こした! 周キンペイは雲隠れしているしありえない話ではないかと思う。願望であるが、中京は内外から崩壊してほしい

 

2021/01/10/21:43
ベルリンもパリも停電!
これは全世界の主要都市で停電になるかも
絶対に絶対に今世界で何かが起きている!
陰謀論ではなく現実になる

 

 情報が錯綜、というより元情報が根拠薄弱であるがためにデマが膨らんでいるというのが正解かもしれません。しかし、さすがに全世界停電は事実確認が容易なため実害のあるデマにはなりませんでした。

 

2021/01/10/23:00 そしてそれは来なかった

 そして、該当の時間、それは起こりませんでした。引用Tweetが存在しないのは、陰謀論を信じた側の発言がピタリと止まったからです。「何も起きなかったじゃないか」とあざ笑うTweetのみ多数見られます。


2021/01/11 陰謀論は死なず

 しかし、ほとぼりが冷めると、再び同様のTweetが跋扈しはじめます。
 
2021/01/11
サイモンパークスさんのイギリス時間10日付けの更新動画をハローフロムさんが翻訳されてます。
発表はメインストリームメディア以外を通じて発表される。緊急放送システムが使われるのは最後の最後の手段。
https://youtu.be/**********
時間通りには発表されない。(情報戦の最中、それは当たり前かも)

 

2021/01/11
(警告重要警告)
主要メディアは見ないように。
緊急放送システムは"最後の最後の手段"。
HB・JBの映像はお"見せ出来ない危ないもの"ばかり。
法王の画像は"ホロ"の可能性。
その他詳細は上向き矢印にて各自ご確認願います。

 

2021/01/11
【世界緊急放送】
昨日の23時頃にトランプが世界緊急放送システムを使用しました。僕の知っている範囲内で語ります。
①ペ○○の逮捕
②世界規模の停電
バチカンパキスタン
日本も停電が起きる可能性がある。
③食料、水の確保
④ラジオ、懐中電灯を用意
⑤冬なので、防寒具やカイロの用意

 

 最後に米国のことであるのに、我が事のように檄を飛ばしている画像を貼っておきます。陰謀論とは、世界情勢を我が事のように感じるためのツールとして機能していることがわかります。

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冷静になってみると日本はほぼ無関係

 

我々はこれにどう向き合っていくべきなのか

 この文は陰謀論者を嘲笑するために書かれたのではありません。陰謀論がここまで力を持ってしまった時代は近年では存在しなかったと考え、ここにその危険性を告発する意味でまとめました。

 大国の政治の中核が陰謀論を信じ、いや、たとえ信じていなくともそれを利用した結果、その同盟国の一般人にまで影響は及ぶようになってしまいました。その陰謀論は過去から続く根深いものではありますが、そのパターンを知ることで十分に対処は可能なものだと信じています。

 今回のケースでも顕在化したように「期限を設けてそれを堺に世界の大変革が起こる」というメッセージはデマの類型的なパターンです。また「敵は陰謀をめぐらせている」という根拠のない発信も同様です。我々はそれらのパターンを知り、それに期待せぬようにしなければなりません。まして米国の連邦議会議事堂占拠のように行動を伴ってしまうものにはなおさら踊らされないようにせねばならないでしょう。

 宇宙人による支配という世界観を一笑に付すのであれば、この一連の陰謀論の根底がそれを根拠としていることを思い返し、一見すると事実とも思えるドミニオンのサーバーをめぐる一連の噂も一笑に付すべし、ということになるでしょう。噂の根拠を追っていった結果、イルミナティバチカンなどの単語が登場した場合も同じです。陰謀論に踊らされぬためには、それらの単語や、今回のケースについて記憶しておく必要があるということになります。

 私はオカルトを題材とした娯楽小説でデビューし、その後もオカルト趣味を持ち続けてきましたが、その趣味には陰謀論を信じているフリをして弄ぶという露悪的な側面があります。ですが、そのスタンスもこういった現実を前にしては控えなければならなくなってきました。

 いつまでたってもこういう陰謀論はなくならない、と諦める気持ちもあるのですが、時代というのは急転換するのでなく、ゆっくりと変わるものです。陰謀論者のように一気に“目覚める”のでなく、少しずつ馬鹿な考えを無くしていくように務めなければならないということなのでしょう。

 

付記

 種々の引用については削除依頼があれば応じます。

本年のまとめ

 今年は本当に不活性というか、世間も自分も何も出来ずに終わった感があり、なんとも隔靴掻痒の年となりました。こういう年があったことを将来的にも忘れずにはいたいものです。

 

陰謀論には注意

 なにより個人的に忘れてはいけないと思ったのは、「この年を境に“オカルト遊び”をある程度限定的なものに留めなければならない」、という教訓でしょう。テレビでディープ・ステートの名が語られるまではいいのですが、本気で信じている人々が増加しているのを見てしまうと、冗談でも記述するのを控えなければいけない、と思います。

 そもそも“オカルト遊び”は何をするにも「信じているフリ」が重要なわけで、表立って否定せず、センスの良い人にだけ真意がわかるようにするプラクティカル・ジョークです。その意味でも、過激な米国共和党支持者たちの言説をそのままテレビで扱っていた某番組の姿勢は非常に危険なのではないでしょうか。信じるか信じないかは当人次第と言いながら、冗談の余地がなくタレントをメンターのごとくに崇めかねない演出までなされていました。

 それでも全体として捨てねばならぬ思想が判明したことは喜ぶべきことでしょう。現代の陰謀論は実害を持って我々の前に出現したとも言えます。選挙における陰謀論は内戦に直結しますし、インフラへの信用の失墜は生活基盤そのものを脅かします。それらのすぐに危険とわかる陰謀論も、“イルミナティカード遊び”等の実害のないものと地続きであることが示されたわけです。日本においても、オカルトで遊んでいたつもりのあなたの隣人が富士山消失を訴え、5G通信を恐れて自殺するかもしれないというところまで来ていると考えるべきでしょう。

 いわゆるオタク趣味の人々は、そういう陰謀論から遠い人種と思われていましたが、米国では積極的にそういう趣味の人々がハマっていますし、国内でも某掲示板の政治板がそのような人々の巣窟になってしまいました。遠い国の話ではないと考える必要があり、これらの動きには注意していく必要があるはずです。

 

オタク趣味の転換点

 オタク趣味といえば、露骨にそちらの香りを持つ『鬼滅の刃』が記録的興行収入を叩き出し、社会現象となりました。これをもってSF的に言えば「オタクの浸透と拡散」が完了したと言えるでしょう。これからは違和感もさほどなくオタク趣味のイラストが街の風景に溶け込むわけです。美少女イラストの看板を見てしまったときの気恥ずかしさはもはや過去のものです。

 小説においてもライトノベルと一般小説のパッケージングに違いは見つけにくくなってきています。内容的にもファンタジー色の強さは作品固有のパラメーターに過ぎず、大きな括りでは違いを見分けるための指標にはならないでしょう。

 これを浸透と拡散と称したのは、SFの退潮と相似形となるであろうからです。ゲームもアニメもなんであれとりあえず見る、というオタクスタイルは消え去り、個々人は絵柄やストーリーによって細分化されたコミュニティを探して安住し、そこから出てこなくなるというのが主流となるでしょう。それが一般的なカルチャーの消費スタイルとなれば、コアなオタクは過去のヒット作に拘泥し続けるしかなくなり、それらへのオマージュを捧げた作品のみが「ハードオタク」などと呼称されることになっていく未来も予想できます。

 鬼滅のヒットで証明されたのは、オタクは作品こそ発信こそできるものの、ヒットを生み出すための宣教師にはなれない、という事実でした。コアな人々がどう作品を紹介しようとも、ヒットを作り出すのは趣味のネットワークでなく、生活のネットワークでつながる人々だったという分析は可能でしょう。

 

これからの展望

 ことカルチャー、コンテンツに関しては、「マーケティングではキャズムを越えられない」というべきでしょう。我々作家の生き残りは困難になりますが、細分化したスタイルを貫徹することこそが、大ヒットにも、作品継続のためのファン獲得にも繋がるのではないでしょうか。より良い未来は中々見えませんが、ファンの増加と構造改革のために努力していくしかないようです。

 

来年度よろしく

 そんなわけで来年もよろしくお願いいたします。参加させていただいているアンソロジー・シリーズと何かが出るはずです。現在心からの趣味で書いている作品はこちら。青年誌的なバイオレンスのあるサスペンス作品となっております。

 

novelup.plus

 

 

 

 来年が良い年でありますように、と切実に祈ります。