巨大宗教としての現代スピリチュアルと宇宙人

 『Dimitri Osmosovich』日本語表記だと『ディミトリ・オスモソヴィッチ』で検索するとわかるのですが、この自称ロシア連邦保安局のエージェントは、「プーチン政権がアヌンナキと軍事的に戦い続けている」という主旨の主張を続けています。もちろん荒唐無稽な説で、陰謀論としても意図がわかりにくいのですが、この「アヌンナキ=宇宙人が人類を知性化した」という基礎部分こそ昨今広まっているスピリチュアル的世界観の中核です。陰謀論とも近接しますので、まずはこの世界観の現在の立ち位置を確認したく思います。

 

アダムスキーの頃から

 おそらくUFOに乗ったと主張した人の始祖はアダムスキー型円盤で有名なジョージ・アダムスキーですが、彼はUFO宗教の先駆けでもありました。

 UFO宗教は大まかに言えば「実体を持ち精神体でもある高度な宇宙人が、やがて人間を完全平和に導く」という主張を持つ団体です。50年代から70年代に多く立ち上がりました。コンタクティーと呼ばれる人物が中心となり、その人物のみがテレパシーにより宇宙人からのメッセージを受け取ることにより維持されるという形態を多くとっています。

 アダムスキーの著作には宇宙意志との一体化や人類のテレパシー獲得による平和を訴える『宇宙哲学』なるものが記述されており、UFOや宇宙人を宗教化、スピリチュアル化するための重要点が最初期からすべて備えられていたことが伺えます。もっともアダムスキーはそれ以前に東洋趣味の宗教団体を設立したことがあり、その経験も生かされているに違いありませんが。

 アダムスキーの著作は全集化されており、その分量から“勉強する”必要がある雰囲気を放っている点も見逃せません。現在でも「UFOは信じられないがアダムスキーは素晴らしい思想を語っている」というレヴューが投稿されており、ある種の人々を惹き付ける完成度に驚かされます。

 これらUFO宗教は最近になって、その特色をそのままに、宗教としてでなく、スピリチュアル団体として乱立しています。2012年は後述する“アセンション”の年とされ、多くのスピリチュアル集団が色めき立ちました。これらの団体が主張していることがどれも似通っているというのが現代スピリチュアルの特徴であると言って良いでしょう。

 

デニケンが科学的雰囲気を付加する

 アダムスキーらが示唆した「古代に宇宙人が来訪し人間に知性や文明を与えた」という主張はエーリッヒ・フォン・デニケンによりメジャーとなりました。1968年の著作『未来の記憶』がベストセラーとなり、1969年には邦訳されています。

 この著作は科学的な匂いを持っていたのが特徴で、ピラミッドやストーンヘンジ、ナスカの地上絵などのオーパーツと呼ばれる遺物がいかに当時の技術で実現不可能であり、天文学的に正しい特徴を持っているかを並べ立て、古代人の神話がいかに宇宙人を連想させるかと誘導しました。現在ではほとんど論破されていますが、オーパーツについての噂話のほとんどはデニケンにより広められたと言えるでしょう。

 このアプローチが主にシュメール文明に対して向けられたものが、惑星ニビル、そしてアヌンナキ=宇宙人という説なのです。

 

アヌンナキ

 アヌンナキとは、ゼカリア・シッチンによる1976年の著作『The 12th planet』で唱えられた宇宙人で、シュメール語による神々の総称です。デニケンの主張を発展させ、世界の各種神話を「人類は宇宙人によって作られた奴隷である」というアプローチで繋いだものです。「かつて太陽系に存在したが失われてしまった惑星ニビルよりアヌンナキは地球にやってきて、人類に知恵を与えた。アヌンナキは爬虫類型であり、エデンにおける蛇や、各地の蛇神伝説がそれを示している。アヌンナキは善悪の立場に別れ、人類史の裏面で争いを続けている……」なるストーリーに集約されます。

 この直立した爬虫類型宇宙人というアイデアは、1982年に提唱されたディノサウロイドと1983年のドラマ『V(ビジター)』の人間の顔面の皮を剥ぐと爬虫類の顔が出現する、とのビジュアルにより鮮烈にイメージ化されて伝わり、一部のQアノン信者が主張している「ディープステートはレプティリアンに支配されている」「彼らは瞳孔が縦になるので見分けられる」などの言説に繋がります。

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スピリチュアルと宇宙人の融合

 近年になってUFO宗教を含む現代スピリチュアル団体が乱立したのは前述の通りですが、その特徴として団体間に奇妙な融合が見られることが挙げられるでしょう。彼らはそれぞれ、アルクトゥールスシリウス、ゼータ・レティクル、エササニ……と実在、またはオリジナルの無数の星々の宇宙人とコンタクトしていると主張していますが、互いにどちらが本物だ、と争い合うことはあまりありません。「宇宙人は高次元より語りかけており、低次元にある人間を次元上昇(アセンション)させることで幸福に導く。次元上昇できない悪の宇宙人もおり、彼らは人類に干渉してくる。宇宙人の血は古代より人間に流れ込んでおり、善悪どちらの血に従うか選ばなければならない」という世界観を共通して持つようになっているのです。

 これは信奉者、というかユーザーが被っており、彼らが情報を共有しているため、そして、何より教祖たるコンタクティーたちが旧来の書籍やセミナーという手段にとどまらず、You Tubeによる動画配信も行うようになったためでしょう。ユーザーの期待に応えることで世界観が似通ってきてしまったということになります。

 高次元存在(神、心霊、疑似科学としての宇宙論)波動エネルギー(パワー・ストーン、パワー・スポット、ヒーリング)、古代の血(生まれ変わり、レムリアやムー)、善悪の戦い(ライトワーカー、天使・悪魔、龍と蛇)、などのように各種スピリチュアルはUFO宗教の下に統合可能となっているのです。

 宗教研究で使われる用語に“シンクレティズム”というものがあります。異なる宗教が特定の土地で融合してしまうことを指しています。日本では神道と仏教の神仏習合などが知られていますが、現代スピリチュアルはこのシンクレティズムを起こしていると見るべきでしょう。「前世がアトランティスレプティリアン系のアヌンナキと戦っていましたね。大きなエネルギーの持ち主なのがオーラからもわかります。クリスタルを身につけるといいでしょう」などと言うスピリチュアル系の霊能者は珍しくありません。

 なお前述のアヌンナキなどはレベルの低い悪の宇宙人の代表として固定されるようになりました。一時期一斉を風靡したグレイタイプなどはさらにひどく、どの説においても悪の使い走りのポジションとなっています。

 

つまみ食い宗教の誕生

 驚くべきはユーザーの順応性でしょう。この複雑なシンクレティズムにより、団体やコンタクティー、霊能者ごとに微妙に主張(教義)は異なるものとなっているのですが、スピリチュアル系ブログや書籍の感想等を見る限り、かなりのユーザーが独自に複数の主催(教祖)の主張を消化、吸収し、納得できるものだけをピックアップする形で世界を展開しています。政治陰謀論として理解する人もいれば、前世占いのように理解している人、ヒーリングや心霊主義のみ取り出している人、旧来の宗教における瞑想修行に結びつけている人など様々です。

 これは“信者は統合されていないが共通の世界観を持っている宗教”とでも呼ぶべき現象でしょう。これを民間信仰とすれば、かなりの数の国に信者が存在することになる一大勢力です。体系化されながら、まだ名付けられていない巨大宗教がそこにはあります。

 

Qアノンも侵食しているが……?

 この信仰は前述した統合しやすさとユーザーの順応性により、スルリと現代陰謀論の中核にも滑り込んでいます。Qアノンは本来、反ユダヤ主義ですし、多くのQアノン信奉者たちがそうであるように政治的陰謀論が中心なのですが、入り込んでくるスピリチュアル系を排除しきれてはいないようです。

 しかし、現在Qアノンの日本版Jアノンとも呼ばれる非スピリチュアル系陰謀論者は、明確に違うルーツを持ち、一大勢力を形成しています。それについてはまた別に書く必要がありそうですので、今回はここまでにします。