WEB小説の技法について考えた結果、大河小説に行き着いた話

 ここのところ以前よりも真面目にWEB小説というものに取り組んでいます。自分自身はあらゆる意味で流行を追うということはできなくなっているので、テーマや題材、段落分けなどは旧来のままで、技法についてWEB小説に向いているもの、向いていないものをはっきり見極めようではないかと思ってのことです。

 そんなことを考えながら書いているうち、最初に気づいたのは「WEB小説では『三幕構成』が使いにくい!」ということでした。これから書こうと思っている方や、これまでの小説技法紹介を参考にされている方で上手く行かなかったという場合、この罠にかかっている可能性があります。というのも、三幕構成は映画のシナリオの技法です。つまり、二時間前後でストーリーが終了することをベースに作られているわけで、視聴者(読者)は二時間拘束されることが前提。感情の盛り上がりもそれに従っているため、ラスト付近が最高潮となります。また当然ながら、三幕構成を忠実に行うと、主人公の葛藤や成長はラストでひとまずの決着がつくことになります。これは一回の更新が原稿用紙で三枚から十枚程度で、週に二回以上更新され、ラストまでの長さが決まっていないという形式が主体となるWEBにおいては非常に使いにくいのではないでしょうか。となれば同様に、ある程度のボリュームを持つこと、あるいは読者の長時間拘束を前提とした『序破急』や『起承転結』も、そのまま使うには難しく、何かしらの工夫が必要となるでしょう。

 WEB小説がそのような構成になってしまったことは流行というのもあるでしょうが、読者が「空いた時間に読む」ことを想定しているからこそ、「作品に対するある程度の興味を保ったまま更新を待ち続け」て欲しいと期待し、「いつでも終了、あるいはシリーズの永続化」を狙うから、という事情あってのことでしょう。そこを変えてしまうことはWEB小説サイトを使う上ではちょっとした冒険となります(一冊分を一ファイルで公開するようなことも可能ですが)。

 ならばWEB小説時代に適した構成技法がどんなものかというと、これがなかなか難しく、週刊漫画や長期連載四コマ程度しかないというのが現状かと思います。新聞小説が参考になるかと思ったものの、古い作品でないと細切れの構成にはなっておらず、近年の人気作では長編一冊分を掲載分で区切っただけに感じられます。古い作品、特に大長編では連載ならではの構成が見られますが(『三銃士』『大菩薩峠』などかなり古いものです)。テクニック面で複数年にも渡る長期連載を想定した構成論はこれまで存在しなかったのではないでしょうか。

 もちろん小説で十巻以上続くシリーズはライトノベルでは数多くあります。ですが、これらのほとんどは一貫完結のストーリーに同一のメインキャラクターという構成でした。ストーリーの区切りまで複数巻を必要とする大長編で十巻以上続く作品となると、これは大河小説という分類になります。現在のWEB小説のかなりの数が実はこの『大河小説』に分類されるのではないでしょうか? そして「大河小説の書き方」を必要とする人が多数存在するなどということはこれまでなかった。それが現在のライトノベルの参考になるような構成論が長期連載漫画以外に存在しないと考えた理由です。

 かなりの数の方が大河小説を書き始めたことこそが現在のWEB小説の特異な点なのではないか? というのがWEB小説を書きながら技法について考えた私なりの結論です。とすれば、現在は大河小説の技法が蓄積されていく過程にあるのではないでしょうか。そう考えると、WEB小説がさらに面白く読める気がしてきます。

 そんなことを考えながら書いているのがこちらの作品。長いので『脳自殺パラ』と読んでいます。

novelup.plus

 現在、単行本一巻分くらいにはなっていますが、終わる気配がありません。WEB小説の形式が大河小説になってしまっている現状を思いつつ、私が使えると思っている技法についても確認いただければ。今後、WEB小説向けの構成技法についてわかったことがあれば書いていこうかと思います。